本と絵「漂砂のうたう」




































「本と絵」とは、本を読み、頭に浮かんだ絵を描くシリーズです。

題名「漂砂のうたう」 
作者 木内昇 
出版 集英社 

あらすじ(集英社web文芸サイトよりhttp://renzaburo.jp/hyousa/)
江戸から明治に変わり十年。御家人の次男坊だった定九郎は、御一新によってすべてを失い、根津遊廓の美仙楼に流れ着いた。立番(客引)として働くものの、仕事に身を入れず、決まった住処すら持たず、根無し草のように漂うだけの日々。
ある時、賭場への使いを言いつかった定九郎は、かつて深川遊廓でともに妓夫台に座っていた吉次と再会する。吉次は美仙楼で最も人気の花魁、小野菊に執心している様子だった。時を同じくして、人気噺家・三遊亭圓朝の弟子で、これまでも根津界隈に出没してきたポン太が、なぜか定九郎にまとわりつき始める。
吉次の狙いは何なのか。ポン太の意図はどこにあるのか。そして、変わりゆく時代の波に翻弄されるばかりだった定九郎は、何を選びとり、何処へ向かうのか――。



<絵について>

雨の音。物音。雑踏の音。いろんな音が聴こえてくるような
表現豊かな文章にひきこまれた。雨のシーンがよく出てきたこと、遊郭の中で
光る一人の花魁の存在、生簀で飼われている金魚と自分を重ねる主人公の気持ちが
痛く印象に残ったので、雨、花魁、金魚を描くことに。
調べていくと「金魚玉」と呼ばれる小さな金魚鉢が江戸時代から
金魚売りが売っていたと知って、このような絵になった。
最初は金魚鉢にしようかとも思ったけれど、金魚鉢よりも狭い金魚玉の方が、
窮屈な場所で生きざるおえない登場人物たちの心情を表現できそうな気がした。

文中に出てくる色の名前も素敵で、花魁が着ていた「緋色の襦袢」や、落語「牡丹灯篭」のお露が
着ていた「燃えるような緋縮緬」という言葉が頭に残り、金魚玉をもつ手元に赤をのぞかせてみた。
その他にもお納戸色、金襴、紅、藍、鴬、藤色、秋草色染めなど色の名前がひとつひとつ素敵だ。
なぜ今その名前で呼ばないのだろう。
西洋に魅せられて、自国の素敵なものを過去においてきているような気がする。